2013年1月に鳴門海峡にクロマグロが回遊していたのは?
■ なぜマグロは鳴門海峡にやってきたのか?
2013年1月に鳴門海峡で大型のクロマグロが跳びはねる姿が報道され,話題になりました。跳びはねた大物クロマグロの体重は不明ですが,遊漁者が釣り上げたマグロの体重は30kgほどでした。一方でドラム缶のような大きな個体も跳びはねていたという漁業者の目撃情報もあるくらいです。 標識放流試験からヨコワサイズのクロマグロは太平洋を横断するような大回遊を行うことがわかっていますが,親になると冬には太平洋や日本海を北上し,津軽海峡などで漁獲され,春には産卵のために産卵場である南西諸島周辺海域に南下することが知られています。 2013年1月に鳴門海峡に来遊したクロマグロは太平洋の日本列島周辺海域を南北移動過程で鳴門海峡に迷い込んだものと想像しています。直接の原因は「流れに乗って」なのか,「餌を求めて」迷い込んだものなのか定かではありません。鳴門海峡で数ヶ月を過ごした後,太平洋に出て本来の南北回遊ルートに戻ったものと思います。
■ マグロの市場価格はあるのか?
クロマグロ(標準和名)はサイズや地域によって呼び名が異なり,体重200~300gのものをコヨコ,シビコなどと呼び1~5kg程度のものをヨコワ,ヨコ,メジ,定義はありませんが,漁師さんは20~30kg以上のものをホンマグロと呼んでいます。体重30kgであれば2,3歳の若魚といったところでしょうか。価格が高いのは100kgを越える5歳以上の大型個体です。体重50kg以下の若魚の価格は脂の乗り具合や品質にもよりますが,kg当たり数千円で,数多く釣り上げないと利益にはなりません。
徳島県沿岸ではコヨコやヨコワは普通に漁獲され,主にコヨコは養殖用の種苗に,ヨコワは鮮魚として取引されます。県南が養殖マグロの種苗の供給基地になっていることは意外に知られていません。沖合や遠洋で操業する漁船は別にして,本県の沿岸域で20kgを越えるクロマグロは年に数本しか漁獲される程度で,まとまって漁獲されることはほとんどありません。また,20kg以上になると力も強く,普通の仕掛けでは釣り針に掛かっても糸が切れてしまうため,マグロの顔を見ることはないのかもしれません。大きなマグロを釣るにはそれなりの仕掛けや餌の投資がいるため,損をしてまで不確実なマグロを釣ろうとする漁師さんはほとんどいません。また,船舶が頻繁に航行する狭い海域でマグロを釣ることは安全上の問題もあります。
■ 現在の状況は?
2014年冬にも県南で数十キロサイズが数本水揚げされたことは聞きましたが,2013年のようにまとまって跳びはねる姿は目撃されていません。回遊魚の行動は神出鬼没です。私達が知らないうちに鳴門海峡を回遊しているのかもしれません。クロマグロの回遊は一攫千金の夢のある話ですが,生業として釣り上げるには様々な難しい課題があるのも事実です。 以 上