吉野川橋の木杭とアーチの数

吉野川橋の橋台基礎杭については、
『昭和三年 國道第二十一號線 吉野川橋工事概要 徳島縣 設計大要(ロ)下部構工事 (2)橋臺』に以下の通り書かれています。
『橋台ハAP以下五尺迄掘下ゲ末口五寸長三十尺ノ松杭八十八本ヲ心々三尺間ニ打チ込ミ基礎ハ厚五尺ノ混凝土トシ躯体ハU字型トセリ、其ノ高サ基礎混凝土上二十六尺九寸トス

①:木の種類
松杭を用いています。
②:長さ,太さ,配置
太さは五寸=約15㎝、長さは三十尺=約9mの松杭を、三尺間隔=90㎝で合計88本の杭が打たれていることがわかります。
③:構造上大丈夫
 現在、基礎杭として使用されているコンクリート製杭などの既製杭は1934年(昭和9年)くらいから使用されるようになり、それ以前は木杭が構造物の基礎として使用されていました。構造物の基礎としては、地盤の地耐力が期待できない箇所に木杭を打ち込み、鉛直支持力のみを受け持たせています。そのため、構造物とは一体化させずに分離させていることから、構造物は基礎杭の無い直接基礎としての安定計算をおこなっており、杭は鉛直力のみ分担する計算となっております。コンピューターが発達している現在の構造や計算方法と違いはありますが、この構造で86年もの間、大きな変状もなく健全な状態で橋を使用したと言う実績があります。
④:腐らないのですか?
 木が腐るときは、腐朽菌が木材組織内に侵入し、木材の成分が分解されていきます。腐朽菌の菌糸が生育するためには、木材中の栄養分や、水、空気(酸素)のほか、温度、光などの条件が関わります。そしてその条件が満たされない場合、腐朽菌は生息することができません。橋台基礎杭のような、土中で空気が遮断された状態であれば、木材はかなり長い間、性能を保持することができることが報告されています。
 ちなみに、吉野川水系の飯尾川第1樋門の松杭について、『樋門基礎杭として80年以上経過したマツ材の性能』には、樋門基礎マツ材は80年以上の経年経過にもかかわらず、新材マツ杭と比較しても劣化度の違いや強度差がほとんどみとめられず・・・と書かれており、80年経過してもマツ杭が劣化していないことが証明されています。
⑤:何年保つのですか?
 前述のとおり、地中内の木杭の環境に左右され、常に水中にある木杭は腐らず、長期的に期待できますが、地下水の低下等により、その部分が空気にふれると腐食が始まり役目を果たさなくなります(都心では地下水の低下で木杭が腐食していた事例が報告されています)。また、現在、橋を通行している車両の交通量が大幅に増加したり、重量の大きい車が頻繁に通行するようになると、橋の傷みが早くなります。よって、木杭の寿命は建設位置の地下水の環境や通行する車両の状態に左右されます。

【参考】
1 樋門基礎杭として 80 年以上経過したマツ材の性能(徳島県森林林業研究所)
http://www.pref.tokushima.jp/_files/00101820/03-0204.pdf
http://www.foresternet.jp/app/srch2/get_file/303

2.アーチ・トラス橋ですが、なぜ17連なんでしょうか?
①:橋の形式

 「アーチ・トラス橋」でなく「曲弦トラス(詳しくはトラスの組み方から曲弦ワーレントラス)」です。上側が曲がっているトラスをいいます。ちなみに上側が直線の場合は直弦トラスといいます。
②:なぜ17連なのか?
 
前述の設計概要では、次のとおり記載されています。
『架橋地点ハ洪水時小徑間ニテハ背水ノ昇騰ヲキタシ治水上悪影響アリ・・(中略)・・比較設計ノ結果徑間二百尺内外ヲ以テ最モ経済的ナリト認メ全橋長三千五百拾壱呎ヲ拾七連ニ分チ一徑間ヲ二百0六呎六吋トシ「トラス」構造ハ脊曲ワーレン型ヲ用ヒ・・・・』

 と現在の設計手法同様、河川への影響(阻害)を考慮するとともに、経済比較を行い最適な径間割とされています。
 形式としては、トラス系かアーチ系です。結果トラス系を選んだ理由はわかりませんが、トラス系のなかで一番スパンを長く出来る「曲弦ワーレントラス」の形式にしたと思われます。(直弦より構造高が高い分スパンを長く出来ます。)当時、曲弦トラスのスパンの長さが、50~70m程度までなので、1064/17=62.6m 位となったと推察されます。また、当時はトラスの橋の実績が多く、等径間対称形の美しさや経済性を大切にしたようです。
参考図書:「吉野川橋工事概要 昭和三年十二月」徳島県

曲弦ワーレントラス橋

曲弦ワーレントラス橋

直弦トラス橋

直弦トラス橋

 

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